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インタビュー
2023年7月1日

来年は設立20周年、14億人に愛される麒麟へ働く仲間が夢を実現できる企業のトップリーダーを目指す

麒麟(中国)投資有限公司 董事・総経理 

安武 直幸氏(やすたけ・なおゆき)

 1977年生まれ、福岡県出身。九州大学・経済学部卒業。2000年キリンビール株式会社(現キリンホールディングス株式会社)入社。工場総務、営業部門、ドイツ駐在、IR室、熊本支社長、南部九州支社長、横浜支社長を経て、2022年7月に上海に赴任。

 2004年に設立し、来年で設立20周年を迎える麒麟(中国)投資有限公司。上海に拠点を置き、中国各地でシェアを拡大、成長を続けている。昨年7月、同社董事・総経理に就任した安武氏に話を伺った。中国の消費者の変化や、これからキリンが目指す目標とは?

商品ラインナップ

 中国で販売している商品ラインナップはキリン一番搾りが瓶ビール2種類(600ml、330ml)、缶3種類(500ml、350ml、135ml)、生ビール2種類(10L、20L)です。缶135mlのサイズは日本産で今年3月から輸入発売を開始しました。

「一番搾り」について

 キリンを代表する製品で、「一番搾り」を中心にしています。この「一番搾り」というのはビール製法の名前です。一般的なビールはろ過工程で最初に自然に流れ出る麦汁と、お湯をかけて絞り出す残りの麦汁を混ぜてつくられます。これに対して一番搾りは最初に流れ出る麦汁だけを使うという世界に二つとないこだわりの製法で作られています。

135mlの「一番搾り」

 600ml、330ml瓶と500ml、350ml缶の一番搾りは全て中国の珠海工場で製造していますが、135ml缶は日本産を輸入しています。このサイズに需要があることがわかり、発売を決めました。小さくて可愛らしい見た目から若い女性を中心に人気があり、現在売れ行きは上々です。またビールは開けてすぐ飲むのが美味しいので、美味しいところだけを味わえる魅力もあります。私自身もスポーツの後など少し飲みたい日に楽しんでいます。

中国での生ビールの売れ行きは?

 飲食店での取り扱いに力を入れており、ジョッキで飲む生ビールも人気です。以前は中国で冷たいビールを飲まない人も多かったのですが、「ジョッキでクリーミーな泡のある冷たいビールを飲む」という文化が徐々に受け入れられるようになりました。日本食だけではなく、中国各地の地元の美味しい料理店で取り扱いをしてもらえるように提案しています。例えば東北地方では羊の串焼き店、南京のザリガニなどです。南京ではトップ10の店に全部一番搾り生ビールを導入していただいています。火鍋店も開拓中です。

中国のお客様に受け入れられている?

 以前は「苦い、重い、飲みづらい」と敬遠されたこともありましたが、中国のお客様は確実に増えています。またおかげさまで、キリンのブランドを知る人も増えてきました。中国の地元の料理店で一番搾りの瓶を机に10本くらい並べて食事を楽しんでいるグループを見かけたときは、それを実感して嬉しく感じました。

「本搾り」シリーズについて

 世界中でも珍しい果汁とウォッカだけを使用した画期的な商品で、日本でも根強いファンが多い商品です。香料を全く使用していないため、規制が厳しい中国でも問題なく輸入することができ、ご好評をいただいています。本来果汁だけで美味しいカクテルを作るのは難しく、普通のチューハイの果汁配合率は1〜3%で香料によって香りを出しているものがほとんどです。「本搾り」は種類によって果汁量も30%~50%と異なり、果実によって一番美味しい量を研究して作っています。

ビールの製造は難しい?

 難しいです。今人気のクラフトビールは作る毎に味わいが異なるのが魅力のひとつですが、キリンのビールは、毎回同じ品質で同じ味わいで製造しなければなりません。ビールの製造で人間が変えられるのは温度や時間だけ。他は、原料本来の味わいと自然の発酵の力で作るので、毎回同じ味を作るのは実は非常に難しいのです。工場設備の機械化は進んでいますが、毎回のビールのコンディションに合わせて最終的に判断するのは人間。技術員がビールの状態を見て、中身を調べて、味を確かめて判断しています。機械だけでは作れない、繊細な製品です。

日本と中国のビール販売における違いは?

 日本と中国の大きい違いはまず酒税の違いがあることです。日本は種類によって酒税が異なるため価格も異なりますが、中国は味わいの違いで価格が変わります。「一番搾り」の属するプレミアムカテゴリージャンルが中国では今伸びています。「お金を出しても品質が高いものを買いたい」という層が増えているのです。一方日本は残念ながら人口も減少し、酒類の総出荷量は減っている上、安い価格帯のものに売れ行きが流れている状況です。メーカーの企業努力で酒税を抑えて美味しい製品が開発されていることもありますが、中国とは逆の現象が起きています。

キリンは中国市場を重視?

 一番搾りを販売している海外諸国の中で、中国の市場が一番大きいのは間違いありません。販売エリアも今までは一線、二線都市がメインだったところから、その周辺の都市にも広がっており、中国全体の消費力が上がっていると言えます。天猫などの売上をみても価格帯は高めの商品が売れており、アンケートでも「美味しいもの、良いものだったから値段は気にしない」という声が出ています。これからも伸びる市場だと考えます。

赴任してからの1年を振り返っていかがですか。

 中国での勤務は初めてです。以前はドイツで勤務していたこともあり、グローバルでキリンのブランドを広げる仕事を希望していたので中国に赴任できて嬉しく思っています。ゼロコロナ政策中の赴任だったため、本来の中国を感じる場面が少なかったかもしれませんので、これからしっかり体験していきたいです。この1年間の変化としては、消費者の健康志向が強まったと感じます。それに合わせて、今後は一番搾り糖質ゼロや健康機能系の商品を強化していきたいと考えています。

日本と中国の文化の違いを感じたエピソードは?

 お酒の飲み方が全然違うのには驚きました。日本では各々が好きなタイミングでお酒を飲みますが、中国では全員で乾杯して飲むという違いです。一人でお酒を飲んではいけないのに初めは驚きました。しかしみんなで一斉に飲むというのは体験してみると非常に楽しく、面白く好きな文化です。お酒が場を盛り上げるコミュニケーションツールとして認識されているということがわかります。

なぜキリンに入社されたのですか。

 学生時代にテレビ局でアルバイトをしていたこともあり、元々は影響力がある仕事をしたいという思いからマスコミ関係を希望していました。一方ビール会社はテレビCMも多く誰でも知っている企業であり、自身もビールを飲むのが好きだったので合わせて就職活動をしていました。最後までマスコミと悩みましたが、形があって、自ら愛着があるものを世の中に広めて影響力を発揮する仕事が面白そうだと感じたことと、就職活動時に出会ったキリン社員の方々の人柄に惹かれて入社を決めました。

海外で勤務して感じたことはありますか。

 それぞれに文化に違いがあり興味深かったです。例えばヨーロッパの人は休暇をとても大切にし、何週間も休暇を取ります。中国の人も家族を大切にし、オンオフがはっきりしており残業はあまりせず、定時になればすぐに帰ります。

 海外での生活を経て日本をみてみると、エネルギーが内側に向かいがちだと思いました。大胆さやスピード感を持って、目の前にあるチャンスを掴む姿勢が日本には少し足りないかもしれません。

大変だった思い出はありますか。

 40才で支社長に就任した時は「若すぎるのでは」というようなネガティブな言葉をかけられたこともあります。中国では女性や若い世代がトップとして活躍していたりしますが、日本で、しかもお酒の業界は年功序列的な考えの人がまだ多いのが現状です。実年齢はどうにもできませんが、やる気を持って新しい市場を開拓していく「心の若さ」は仕事上必要だと思います。年齢というよりはその情熱で、逆境に負けずこれからも目標を達成していきたいと思っています。

目標を教えてください。

 私は20代前半の時、自分の人生の目標を20代から10年単位で立てました。20代は日本で一番のセールスになる。30代はグローバルで活躍する。これらを手帳に書いて、周りにも話すようにし、実現してきました。思ったことしか実現できないので、目標や成し遂げたいことは必ず言葉にして紙に書くようにしていました。そして今40代で成し遂げたい目標はグローバルリーダーになることです。中国市場でグローバルリーダーとして成長し、次はトップリーダーとなって、より大きな組織を動かす影響力の発揮できる仕事がしたいと考えています。

 中国での赴任期間中の目標としては、中国市場がキリングループにとって海外事業の中心となり、キリンブランドを14億人の市場の中で愛されるブランドにしたいと思います。

目標を実現するためにやっていることは?

 大切にしているのは働く仲間たちです。着任した時に私は「夢が叶えられる会社にしたい」と社員に伝えました。どんな夢でも構わないのです。人は働く中で自分の夢を実現し、成長し、充実した時間を過ごせたら幸せな人生なのではないかと思います。なので私はリーダーとして、キリンで働く人々が、このブランドを扱う意義を感じ、飲んだ人が笑顔になる製品を売ることにやりがいを持ってもらいたいのです。働く中でどういうことを実現したいのかを考えながらそれぞれ成長していってほしいと思っています。