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インタビュー
2023年9月1日

大連EX未来科技館で近未来を体験しよう!人類に寄り添う人型ロボットを世に送り出す

EX未来科技館 創始者

大連蒂艾斯科技発展股份有限公司(EX機器人)総裁

李 博陽氏(Li・BoYang)

 大連理工大学を卒業後、早稲田大学大学院へ進学し人工知能を学ぶ。博士課程修了。大学院では華為のプロジェクトに携わった。修了後は日立研究所で研究員を務め、九州電力の管理システムの開発などに関わったほか、国立遺伝学研究所で特任研究員を務め、タンパク質の配列に関するビッグデータの分析に携わる。2006年帰国後EXグループを立ち上げる。

 8月16日から21日まで北京で開催された世界ロボット大会で多くの注目を集めた人間そっくりなロボット。これを大連の企業が手がけているとご存じだろうか。

 2021年9月に大連で開業した「EX未来科技館」では、近未来的な空間の中に、多数の本物の人間そっくりのロボットが展示されている。大連の一大リゾート地である金石灘の展示施設の一つとして、親子連れを中心に日々多くの来場客で賑わう。実はEX未来科技館は展示だけの施設ではなく、研究開発の拠点として日々ロボット研究が行われている。

 今月はEX未来科技館の創業メンバーの一人であり、日本で人工知能を学び、大連に戻り起業をした大連蒂艾斯科技発展股份有限公司(以下、EX機器人)総裁の李博陽氏を取材した。

EX未来科技館とはどのような施設?

 2021年9月に開館した同館では、バイオニック・ヒューマノイド・ロボット、5Gクラウド・ロボットなどの高度な技術を駆使したプロダクトを多数展示しています。来場者は、リアルでエンターテインメント性溢れるロボットたちを通して、人間と機械が共生するSFさながらの未来を間近で体験することができます。

どのようにリアルな質感を再現している? 

 ロボットの皮膚は、医療用のバイオニック・シリコンを使って作っています。皮膚の毛穴や足の静脈、手のひらのしわまで細かくリアルに作りこんでいます。実際の人の体をスキャンして、その人そっくりの人型ロボットをカスタマイズして作ることも可能です。

ロボットの開発に携わるのはどんな人が多い?

 私の同僚の多くは「技術オタク」。業界の中で、「ギーク」と呼ばれます。特に開発部門の人はその傾向が強く、ある特定の分野においては非常に高い能力を発揮するが、それ以外(人とのコミュニケーションなど)が苦手といった傾向のある人たちです。不得手があったとしても、物理や、電気や、機械など特定の分野が好きであれば、この業界で活躍することができると思います。

なぜロボット事業に参入したのか

 社会の発展にロボットは欠かせません。私はロボットで言うと知能の部分に当たる計算を大学で学びました。一方、私のビジネスパートナーは商業に強く、我々の得意分野を組み合わせたところ、ロボット業界が適切だと考えました。そして作るべきはまだ世界にない人型ロボットだと思ったのです。既に社会に進出している工業ロボットに比べ、人型のロボットは構造が複雑で、作るのは難しい分野ですが、前途があると思っています。

なぜ人型ロボットを作る?

 より良い未来を目指すため、社会が必要としているからです。人型である理由は単純で、社会環境に合うからです。人類は人の体に合わせて、机や椅子などさまざまな道具を生み出しました。人型ロボットなら、そのほかの環境を変える必要がなく、すぐに生活の中に溶け込ませることが可能です。また、人の心に寄り添ってくれる存在としても人型であることが重要です。

どのようなロボットを作ろうとしているのか

 人間とそっくりな見た目だけではなく、動作もスムーズで、話が聞き取れ、周囲の環境を識別でき、自然な会話ができ、表情が作れるものを目指しています。機械で実現するには非常に難易度が高いことに挑戦しています。

人型ロボットの開発は、具体的にどういった点が難しい?

 人類は想像以上に複雑なことをしています。例えば手や顔です。小さな空間で非常に複雑な動作をしています。手ほどの大きさの機械で精密な動作をすることは難しく、現時点で人間の手と全く同じ動作をしようとすると、大きな空間が必要です。顔は筋肉を使って喜怒哀楽のさまざまな表情を作っています。豊かな表情を再現する多くの電気信号を、顔の大きさほどの範囲に送るのは難しいと想像できるのではないでしょうか。

 また感情の理解についても開発を進めていますが、我々ホンモノの人間でさえ、相手の感情を正確に読み取ることは難しいものですよね。人の心や体の動きを機械に置き換えると非常に複雑で、挑戦しがいがあります。

日本に行ったことは?

 日本は2005年から2013年の8年間住んでいました。大連理工大学大学院で電子データ工程を1年学んだあと、早稲田大学に留学に行きました。当時の学長は大連出身の日本人だったこともあり、早稲田大学と大連理工大学の協力プロジェクトが立ち上がって、5名の学生を募っていたところに応募し、選ばれて日本へ留学に行きました。

なぜ起業?

 研究者として日本に残る選択肢もありましたが、新しいことに挑戦したかったので起業を選びました。日本の社会は比較的に成熟しており、成熟した社会の中で新しいものを作るというのは難しいと考えました。起業という面においては、中国の環境の方がチャンスがあると思い、起業しました。

起業した当初からロボット業界に参入した?

 いいえ。一番最初はロボットや機械とは関係のない「越境EC」で、日本のブランド品を中国で販売しました。当時中国のインターネットショッピングは黎明期で、日本の商品も今より手に入りにくかったためビジネスは成功し、同ジャンルの中でトップの売上を記録しました。しかし日本と中国の行き来も便利になり、このビジネスはこの先もずっと続くものではないと感じました。その時、「自分で何か作りたい、自分の製品を生み出したい」と考え、たどり着いたのがロボット業界でした。

日本で起業が難しいと思う理由

 日本ではありとあらゆるジャンルにおいて既に大企業が存在し、大学を卒業すればそれらの企業に就職するのが一般的な選択です。あるいは大学や研究所で研究員になるのも選択肢の一つです。しかし、「新しい価値を創造したい」という起業を目指す人にとっては日本は豊かな土壌ではないような気がします。日本は保守的で、固定的。新しいことにチャレンジする雰囲気がやや少ないと思います。

 スピード感にも差があります。私も日本人の友人が沢山いますが、皆真面目で厳格です。新しいものを作り、それを社会に送り出すまでに長い工程を要します。検証を重ねている間に、他の国の企業が既に売り出して、日本企業が間に合わなかったという話もあります。

中国には起業しやすい雰囲気がある?

 中国はまだまだあらゆる物事が発展途上ですから、人々も起業に対して積極的です。チャレンジしやすい環境である一方で、競争の激しい中国社会の中で人々はたくさんのストレスやプレッシャーを抱えていると思います。

日本企業はどのように変化していく?

 ものづくりに関しては日本は強い国です。特にディスプレイなどに含まれるモーターや高精度モーターを含むいくつかの制御機能、これらは日本が得意とするものです。他国企業製品も増え日本製は減っているものの、その裏には日本の技術が生かされている製品も多く、今でも中国の携帯電話には日本製品が使われています。消費者向け製品の製造は減り、その中核となる技術の開発や提供で強みを発揮していくのではないでしょうか。

日本が世界に誇る文化とは

 マネジメントです。私は企業の経営の側ら、東北財経大学デジタル経済研究所の副所長を務めています。技術スタッフの指導に加えて、品質管理の教育もしています。生産工程における品質管理のことで、実は日本に関係する内容が多いのです。日本人は米国から多くの管理体系を学び、それらを日本の大企業でうまく実践し発展させてきました。従業員の教育、全工程や品質の管理など、日本の管理レベルは世界最高レベルです。

今後の目標は

 人型ロボットを社会に融合させ、人と一緒に暮らせる未来を作ることです。これは私個人だけではなく、ロボット業界の目標ではないかと思います。

 社会は今深刻な労働力不足に直面しています。少子高齢化も重要な問題です。ロボットは家事、子供の宿題、お年寄りの世話などの単純作業を代わりにやってくれます。人は時間が増えて、より豊かな時間を過ごすことができるようになります。

ただ日常のケアだけではなく、心のパートナーのような存在もロボットが担うことができると考えています。人は心の拠り所としてペットを飼ったり、ぬいぐるみを買ったりしますが、学習能力のあるロボットはそれらよりも人を理解し寄り添える存在になります。

読者へのメッセージ

 日本人の友人の皆さんがEX未来科技館に見学に来てくださることを歓迎します。私はEXでまだ挑戦の道のりの途中です。失敗や挫折も含めたこのプロセスは、人生において非常に意味があることです。コロナ流行中でもロボット開発に挑戦し続けた理由はここにあります。困難も多くプレッシャーも大きいです。現代社会は変化のスピードが目まぐるしく、技術の変化も早いです。そんな変化に乗り遅れないよう、これからも私たちは挑戦し、新しいロボットを世の中に送り出していきます。また大連に住む日本人の皆様と、これから交流の機会があることを楽しみにしています。