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インタビュー
2025年6月23日

中国の生産基盤を最大限活用し、日本市場の開拓へ
韓国系テント製造メーカーの今後の展望

筵安(大連)帳篷制作有限公司

董事長

柳 大成(ユ テソン)

 1969年韓国生まれ。英語専攻で大学卒業後、1994年に韓国・大宇グループ入社。2000年に現地法人へ駐在員として派遣され、2007年から総経理、2020年より董事長を務める。2019年から大連韓国人商会会長。趣味は散歩、読書、音楽鑑賞(特に日本の演歌やアニメ音楽)。

大連拠点の設立とこれまでの歩み

 当社は1991年に韓国・大宇グループの一環として中国・大連に進出し、1992年からテント製造を開始しました。当初は主にアメリカ市場をターゲットとしたOEM生産を行っており、高品質なアウトドア製品の供給先として着実に評価を高めてきました。

 2007年に大宇グループから筵安アルミニウム製品に経営が引き継がれた後も、大連拠点の運営を継続。とくに2010年代には、米国のアウトドアブームに伴い、毎年安定した成長を遂げ、2022年には輸出総額2,100万ドルを記録。そのうち約85%が米国向けで、アウトドアブランド数十社とOEM契約を結んでいました。

しかし、2023年以降は米中関係の悪化や高関税政策の影響により、米国向けの売上が急減。2024年時点での輸出額は1,100万ドル前後と半減しました。米国キャンプ用品市場の在庫過剰も追い打ちとなり、同業他社の多くが生産拠点をベトナムやインドなど第三国へと移転し始めています。

ご自身の経歴について

 私は大学で英語を専攻し、1994年に大宇グループへ入社。2000年から大連に駐在し、気がつけば25年が経ちました。経営移行時の2007年には総経理、2020年からは董事長として全体の経営を担っています。

また、2019年より大連韓国人商会会長を務めており、韓国・中国・日本の三国間における経済・文化交流を積極的に支援しています。大連に根を下ろした人間として、この地域の発展と調和を目指す責任を感じています。

日本市場を重視する理由とは?

 米国一辺倒だった輸出体制の見直しを進める中で、2021年から日本のアウトドア企業2社との提携を開始。製品の品質や納期対応が評価され、2025年秋には高級キャンプテントの新モデル(1張り7万円前後)を日本市場向けに本格出荷予定です。

これらの製品には、日本から輸入したゴアテックス素材を使用し、韓国や中国の生地と組み合わせたハイブリッド設計を採用。高品質と価格競争力の両立が強みです。すでに試作品は高い評価を得ており、今後は日本市場での売上比率をさらに高めたいと考えています。

製造力と差別化のポイントは?

 当社は約250人の従業員を抱え、そのうち7割以上が20年以上の経験を持つ熟練工です。特に縫製技術のレベルが高く、細部の仕上がりにこだわる日本企業からも高い信頼を得ています。

OEMに加えODM(企画開発)にも対応できる体制が整っており、自社内に設計・試作チームを持つことで、多様な顧客ニーズに柔軟に応えることが可能です。材料は中国国内の約25社から調達し、品質・価格・安定供給のすべてで最適化を図っています。

2015年以降は環境配慮型の素材開発にも注力し、再生ポリエステルや低炭素フッ素加工素材の採用を進め、サステナビリティ対応製品の提案も強化しています。

中国・大連に生産拠点を置く優位性とは?

 東南アジア進出についても検討しました。実際、ベトナムでの生産の可能性を現地調査しましたが、現地の材料供給体制が未成熟であること、熟練工が不足していることから、高品質の製品を継続的に生産するのは難しいと判断しました。

そのため、引き続き大連での生産強化に注力しています。中国は原材料の調達力、製造技術、労働力、物流の点で非常に優れています。今も先端技術の分野で成長を遂げており、大連市政府と交流した際も、産業発展に対する強い自信を感じました。とくに大連は韓国・日本への輸出入の拠点としても地理的優位性があります。

中国語・日本語はどのように習得されたのですか。

 社内には韓国人社員が私一人しかいないため、業務のやりとりはすべて中国語。朝鮮族の社員も在籍していますが、共通言語である中国語を自然に使いこなすようになりました。

一方で日本語は、完全に趣味から始まりました。きっかけは日本の演歌で、そこから歴史や漫画、アニメに興味が広がり、『ドラゴンボール』や『バガボンド』などを全巻読みました。特に『鬼滅の刃』の煉獄杏寿郎のセリフ「心を燃やせ」は、私の座右の銘になっています。

新しい単語はすべてノートに記録し、すでにその単語帳は7冊目。努力の積み重ねが今、思いもよらぬかたちで仕事にも活きています。「蛍雪の功(けいせつのこう)」という言葉もとても好きです。努力して学んだことが、思わぬ形で実を結ぶという意味で、日本語学習もまさにそうでした。趣味で始めたことが、今では仕事にもつながっており、不思議なご縁を感じています。

大連日本商工会との交流

 大連韓国人商会の活動の一環で、大連日本商工会との交流がありました。そこで日本人の友人ができたことをきっかけに、大連在住の日本人の方々とのつながりが広がりました。現在は「69会(ロクキュウかい)」という1969年生まれの日本人が集う会にも参加させていただいています。

もともとは趣味で学び始めた日本語ですが、こうした交流を通じて人間関係が広がり、それが結果的にビジネスのチャンスにもつながるなど、改めて“言葉の力”や“縁”の大切さを感じています。

大連韓国人商会について

 大連韓国人商会は、1991年5月に設立され、大連市内で活動する韓国企業や団体を支援することを目的とした組織です。現在では約200の会員企業・団体が所属し、地域に根ざした多様な活動を展開しています。

大連にはかつて、多くの韓国企業が進出し、韓国人居住者が3万人を超えていた時期もありました。現在ではその数は1万人を下回っていますが、企業関係者、教育関係者、家族帯同者など、さまざまな立場の方々が引き続き大連に暮らしており、活発な韓国人コミュニティが維持されています。

私たちは、同胞同士のネットワーク強化に加え、現地社会や他国の在外コミュニティとの連携にも力を入れています。特に、韓国と日本は地理的・歴史的に深い関係を持ち、大連市の発展においてもお互いに重要なパートナーです。今後も、日韓両コミュニティが協力しながら、大連の地域社会に貢献できるような交流や活動を継続してまいります。

今後の展望と目標について

 米国市場への依存を見直し、よりバランスの取れた市場構成を目指しています。具体的には、日本市場でのシェア拡大と中国国内での販路開拓を両輪として推進していきます。

2023年からは中国の大手アウトドア企業とのOEM契約もスタートし、出荷も順調に拡大中です。日本市場では、品質や機能にこだわる消費者が多く、中国市場とは異なるニーズがあります。そうした違いにしっかりと対応した製品開発と提案が、今後の成長の鍵になると考えています。

変化の激しい国際情勢の中でも、中国・大連という生産拠点の強みを最大限に活かし、高品質な製造を維持しながら、日本企業との協業をより一層深めていきたいです。日本のお客様に選ばれ続けるパートナーであるために、これからも挑戦を続けていきます。