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インタビュー
2025年6月23日

グローバルな視野でビジネスと日中交流の未来を拓く

三井物産(中国)有限公司

東北分公司 総経理 

大連日本商工会 会長

中村 大智郎(なかむら だいぢろう)氏

 1972年生まれ、大阪府出身。幼少期はスポーツと演劇に打ち込み、子役俳優として映画「ボクちゃんの戦場」に出演した経歴を持つ。大阪外国語大学(現大阪大学)外国語学部中国語学科を卒業後、1997年に三井物産株式会社に入社。主に食料・流通分野での業務に従事し、2005年から2007年には上海に赴任。その後、2019年から再び上海、2021年からは北京、2023年からは大連に赴任。多様な国際経験を活かし、現在は中国市場でのビジネス開拓に注力している。

  • <企業について>

三井物産東北分公司の役割や特徴について教えてください。

 三井物産は、金属資源、エネルギー、化学品、鉄鋼製品、生活産業など多岐にわたる事業を展開する総合商社で、三井グループの中核企業です。東北分公司は東アジアブロックに属し、急速に拡大する新しい市場を“フロンティア”として位置づけています。中国市場では、他地域から見えにくいビジネスチャンスやパートナー候補を見つけ、複数の事業本部と連携し、当社ならではの価値を提供しています。現地で議論を重ね提案を作成し、チャンスを「見える化」して社内外と共有することを大切にしています。

東北分公司の設立の経緯を教えてください。

 東北分公司の歴史は、1981年4月に三井物産株式会社大連事務所として設立されたことに始まります。当時、大連市における外資系企業の第1号として開設されました。

 その後、2003年4月には三井物産(大連)有限公司として法人化され、自己名義での貿易を開始。さらに2010年10月には、在北京の三井物産(中国)有限公司の大連分公司となり、現在の体制の基盤が築かれました。2019年4月には「東北分公司」へと名称を変更し、現在に至っています。

現在、重点的に取り組んでいる領域について教えてください。

 当社では現在、3つの重点領域(いわゆる“攻め筋”)において、本部横断的な取り組みを進めています。各テーマごとにリーダーを配置し、東アジアブロック内の各事業部が連携しながら、新たな案件の開拓に取り組んでいます。IBS(Industrial Business Solutions)では、電池や金属・プラスチックのリサイクルを通じてサーキュラーエコノミーの構築を目指し、持続可能な産業基盤づくりを推進しています。

GET(Global Energy Transition)では、低コストの再生可能エネルギーを活用したグリーン水素・アンモニアの導入や、使用済み食用油(UCO)などのバイオ燃料の供給体制の確保、さらには排出権取引の推進などを通じてエネルギー転換を加速させています。WEC(Wellness Ecosystem Creation)では、健康志向の高まりや嗜好の多様化といった社会の変化を的確に捉え、生活産業セグメントが一体となって、新たなライフスタイルを提案するビジネスを展開しています。

現在の中国市場をどう見ていますか?

 中国は現在、世界のGDPの約20%を占める経済規模を有するだけでなく、EV(電気自動車)、再生可能エネルギー(RE)、新エネルギー、ICTなどの分野で世界をリードする動きを見せています。これまでの「生産地」「巨大市場」としての役割に加え、新たな機能と影響力を備えた存在へと変化しつつあります。

 ポストコロナに移行した今、経済活動や市民生活は徐々に活気を取り戻していますが、不動産市況をはじめとした先行きの不透明感は依然として残っており、企業を取り巻く環境には注意が必要です。米中・日中関係などの外部要因も、状況を複雑にしています。

そのような環境下で、三井物産は中国市場でどのようなポジションを築いていますか?

 当社は中期経営計画「Creating Sustainable Futures」のもと、グローバルマトリクス体制の強みを活かしながら、中国市場での取り組みを強化しています。鉄鋼製品・化学品・食料・金属資源といった従来のトレーディング事業の強靭化を進める一方で、消費者起点や環境対応といった新たな価値観に基づく収益基盤の構築にも力を入れています。

 今後は、経済成長に伴う消費の高度化、健康志向、少子高齢化、低炭素社会への移行といった社会課題を見据え、持続可能なビジネスモデルの展開を目指していきます。

地域貢献やSDGsへの取り組みについて教えてください。

 当社は、持続可能な社会の発展と地球規模の課題解決に貢献するため、5つの重要課題(マテリアリティ)に取り組んでいます。具体的には、資源や食料の持続可能な供給、地域産業の発展促進、環境課題への対応、多様性を尊重した人材育成、ガバナンスやコンプライアンス強化を進めています。これらはSDGsとも連動しており、地域社会や環境との調和を目指した企業活動を推進しています。

  • <ご自身について>

入社から大連へ赴任まで

 入社後はまず「教育配属」として3年間経理業務を経験し、その後営業部門へと移りました。主に食料・流通分野を中心に、貿易や内販に加えて投資案件や関係会社への出向も経験し、幅広い業務に携わってきました。また、他本部での経験を目的とした「道場人事」として、プロジェクト本部で2年間中東の発電所建設プロジェクトに関わったこともあり、これは自身にとって大きな挑戦でした。

現在大連では事業全般を管轄する立場にありますが、これまで積み重ねてきた多様な経験が非常に活きており、日々の業務にも大いに役立っています。

入社を決めた理由や会社の魅力を教えてください。

 大学のゼミで、将来的に人口が増加することで食糧危機が起こるという問題について学びました。その時、個人の力では解決が難しいと感じ、グローバルに多部門にわたる当社に入社すれば、少しでも社会に貢献できるのではないかと思い、入社を決意しました。現在、入社当初と比べて事業内容は変化した部分も多いですが、グローバルマトリクス体制を活かして社会課題に取り組んでいる点は変わらず、これは当社の大きな魅力であると感じています。

大連では普段、どのように過ごされていますか。

 家族(妻、息子、娘、犬)を帯同しているため、週末は主に家族と一緒に過ごしています。平日は会食や出張が多く、会食では勤務先の市内や居住地の開発区で異なる文化を楽しんでいます。ラグビーは昔から続けている趣味で、現在は大連で活動するラグビーサークル「ELKS」に参加しており、子供たちとも一緒に楽しんでいます。ラグビーに興味がある方は、ぜひELKSにご参加ください。

長期休暇には、家族とともに日本では行けないような場所へ旅行することを楽しんでおり、去年はドバイ経由でケニアに行き、サファリやナイロビ郊外でのキリンとの朝ごはんを体験しました。また、中国国内では九寨溝や張家界、敦煌などを訪れました。

中国に来る前と後で、考え方が変わった点はありますか。

 日本から見る中国と、実際に中国で生活することには大きな差があることを実感しました。特に、中国のダイナミズムやビジネスチャンスを日本に正しく伝えるのは難しいと感じています。コロナ禍では出張も難しく、オンラインでの情報伝達はどうしても伝わりづらく、苦労しました。現在はビザの免除措置があり、多くの方に直接中国に来ていただいて、その魅力を肌で感じてほしいと思っています。実際に目で見ることで、報道だけでは伝わらない中国の本当の姿を理解できると感じています。現場100回です。

仕事をする中で大切にしている考え方を教えてください。

 仕事をする上で最も大切にしているのは、「相手目線で物事を考えること」です。当社では多くの事業が取引先やパートナーと協力して進められており、相手の立場に立って物事を考えることが非常に重要だと感じています。相手のニーズや視点を理解することで、より良い結果を生み出すことができると信じています。

  • <大連日本商工会について>

大連日本商工会は、どのような組織ですか。

 大連日本商工会は、会員相互の親睦事業を通じて、会員の円滑な商工活動を促進し、日中経済交流の発展および日中友好の促進を目的とする非営利組織です。また、大連市政府との対話を継続し、信頼関係を深めることで、投資環境や企業運営の改善に向けた活動を行っています。さらに、会員企業からの要望を受けて、より良い環境作りに向けた活動や、情報発信・情報共有を行い、会員の利益に資する活動を実践しています。

商工会活動で市内分会長を務めた際の想いや成果があれば教えてください。

 大連に赴任して半年ほどで、理事就任のお話をいただきました。商工会の理事や委員は皆ボランティアで活動しているため、私も少しでも貢献できればと思い、昨年度は副会長兼市内分会長を拝命しました。ポストコロナの時期に、日中間の交流やイベント活動が再開する中で、会員間の交流を大切にしました。特に印象的だったのは、イベント参加人数が一昨年に比べて飛躍的に増えたことです。これも会員の皆さんのおかげだと感じており、感謝の気持ちでいっぱいです。

商工会会長として強化したい取り組みはありますか。 

 会員間の交流をさらに促進したいと考えています。また、遼寧省政府や大連市政府との対話を通じて、大連の活性化や新しい産業の創造を促進する取り組みを後押しすることにも重点を置きたいと考えています。

今後の目標を教えてください。

 現在、日系企業を含む大連の多くの企業が従来の型から抜け出せずに苦しんでおり、新しい産業や事業の創出が必要だと感じています。日本と深い関わりのある大連で、日本人や日系企業の数を増やしていくことが、大連市の活性化につながると信じています。そのために、商工会として、また一日系企業として、大連の活性化に向けて積極的に働きかけていきたいと考えています。