香蘭社(大連)商貿有限公司
総経理
青山 哲也氏
(あおやま・てつや)
1965年9月4日生まれ、佐賀県有田町出身。陶磁器の専門学校である佐賀県立有田工業高校を卒業後、1986年株式会社香蘭社入社。碍子事業部で10年間品質管理に携わったのち、配送センターでセンター長を11年間務める。2007年に美術部事業部に異動、日本国内で営業担当を経て、2015年に海外営業部へ異動。2023年香蘭社初の海外拠点としての香蘭社(大連)商貿有限公司の設立に携わり、総経理に就任。現在に至る。
どのような会社ですか
株式会社香蘭社は佐賀県有田町に本社・工場を置くセラミックメーカーです。陶磁器や碍子(がいし)が主な製品です。有田色絵磁器の多様な文様を集大成し、有田の伝統様式を前進させた美術品の他に、通信事業の発展に大きく貢献した日本初の磁器製碍子(がいし)(電線の絶縁や支持に使われる)の製造、最新技術を駆使したファインセラミックスの開発まで、窯業(ようぎょう)の分野で3つの事業を展開する会社です。
香蘭社の歴史について
1689年に初代深川栄左衛門が有田で陶磁器製造を始めたのが香蘭社の発端であり、300年以上の歴史をもちます。会社は1879年に8代目の深川栄左ヱ門によって設立され、深川家が代々社長を務め、2013年に15代目が社長に就任しました。
香蘭社の器の特徴
社名は、中国の古典『易経』の中にある「君子の交わりは、蘭の宝の香りの如し」という言葉から名付けられました。その名前のように美しく、華やかな色絵や、薄く精緻な造形が特徴として挙げられます。
香蘭社の製品は、有田磁器独特の白く硬い透明な生地に染付と赤絵を配した伝統的な紋様や金銀彩のルリ釉ものなど、多彩を極めています。それらは「香蘭社スタイル」とも「香蘭社調」とも呼ばれ、広く親しんでいただいております。企画や製造から販売までを一括して一社内で行っているのも特徴の一つで、製造では伝統技術を受け継いだ熟練の職人により、日本の自社工場でひとつひとつ丁寧に作っています。
日本ではどのような仕事を
1986年に株式会社香蘭社に入社してから碍子事業部での品質管理に10年間、配送センターでの仕事に11年間従事していました。2007年に美術部事業部に異動となり、8年間日本国内で営業担当を経て、2015年に海外営業部へ異動しました。それから中国、マレーシア、サウジアラビア、ベトナム、米国などを主要な国として営業エリアを拡大してきました。さらに海外事業を拡大すべく、2023年に香蘭社(大連)商貿有限公司を設立し、現在に至ります。
大連に拠点をおいた理由
これまで海外出張で、中国国内の大都市やニューヨーク、ドバイなど様々な都市を訪れました。世界中のどの国においても中国人のお客様が多く、まず中国を拠点にすることは明確でした。大連はまず土地の風土がよく、とても過ごしやすい。そして人の横のつながりがとても強い街だと感じています。上海、広州、深圳などの大都市と比較するとコストも低く抑えることができる上、新しいものと古いものが共存している都市の魅力もあります。
海外拠点の立ち上げ
立ち上げて軌道に乗るまでは、大変な道のりでした。私はそれまで海外に行ったことがなく、パスポートも持たず、中国語も話せませんでした。初めは私自身も言葉の壁に突き当たり、少しずつ中国の中でコミュニティを構築し、サロンなどを開催するなどして客層を獲得していきました。
海外での販路拡大が進み、海外に子会社を設立することが必要になりました。海外法人がなければ、展示会などで実際に商品を販売することもできません。物件探しから、銀行口座の開設など法人設立の全てを私と現在の社員である楊艶の2人でゼロから立ち上げました。設立から1年あまり、今ようやく軌道に乗ってきたと感じています。これからさらに多くの海外のお客様に香蘭社の商品をお届けすべく、次のステップを計画しております。
楊艶総監について
楊艶は元々、深圳で仕事をしていた時に通訳者として知り合いました。中国で仕事を始めてすぐの頃、何人もの通訳者と仕事をしましたが、窯業の専門性や細かいニュアンスを伝えるのが難しいと感じていたのですが、彼女は他の通訳者とは異なり、自ら窯業について学び理解を深めるように務めてくれました。縁あって、香蘭社大連支店の立ち上げに際し香蘭社の社員として採用することになりました。出会ってから、2023年8月に正式に採用するまでの期間は8年で、ここに至るまでの紆余曲折を共に歩んできました。
日本での仕事で大変だったこと
営業部門に異動してからは困難の連続でした。当社の営業は百貨店への営業がメインであり、百貨店という形態が衰退していく中でどのように売り上げを上げていくのかを考えました。新規開拓のために、アニメやキャラクターとのコラボ製品の販売を開始しました。また企業の記念品の受注なども開拓していき、それに伴い順調に売上も獲得できるようになりました。
しかし受注を取っているにも関わらず「これは困る!」と工場の方から怒られたこともありました。というのも、香蘭社の商品は職人の手作業で作られる商品なので、発注量が多くなり過ぎてしまうと工場が対応しきれなくなってしまうのです。バランスを考えながら、売り上げを構築していくのも難しく、営業部門に異動してからは常に悩み続けた日々でした。悩みながら成果を出せた日本での経験が、現在に繋がっていると感じます。
心境の変化はありましたか
実は海外事業の辞令が出た時、会社を退職する事を考えました。何故なら海外に一度も言ったことがない私に到底務まるわけはないと考えたからです。しかし、中国に来て考え方が大きく変わりました。異なる文化に触れたことで、自分のこれまでの考え方がいかに狭かったのかを痛感しました。様々な人や文化と関わり、仕事をするのは非常に面白いことです。今ではビジネスの繋がりはもちろん、中国語も少しずつ学びながら、街の人々とコミュニケーションを取ることも楽しんでいます。
仕事のやりがい
香蘭社の食器は例えば一つのお皿をとっても、数多くの自社職人達の手がかかっています。海外事業部の私たちも自らデザインを考え、ものづくりに関わっています。香蘭社の商品は、ご購入いただいた後も、母から子へと何世代にも渡って受け継がれているものも少なくありません。このように心を込めて作ったものが、例え自分がこの世を去ったとしても残っていくというのは素晴らしいことで、やりがいのある仕事であると感じます。
模倣品について
ありがたいことに、中国で香蘭社の知名度が上がり販路拡大ができている一方で、数年前から模倣品が流通し始めています。同社の模倣品を販売している店を見つけ、製造現場に出向き、製造元を突き止めるための調査なども行っています。香蘭社を後世に引き継いでいくためにも、模倣品対策には力を入れていきます。
その一方で嬉しかったことは、日本製品を買わない習慣だった中国の方が、香蘭社のものづくりを知り、ファンになり、何度も購入してくださるリピーターになってくださりました。製品やブランド名だけではなく、香蘭社の精神を海外に広めていくことが使命だと考えています。
新しい製品
これまでは伝統の技と美を継承し発展させてきた香蘭社ですが、2021年に、by koranshaという現代のライフスタイルに合わせたデザインの、新しいブランドを立ち上げました。香蘭社の丁寧なものづくりはそのままに、多様なライフスタイルに似合う暮らしの器を提案しています。
気をつけていること
自分が会社を代表して海外に出させていただいていることをいつも心に留めて、一つ一つの仕事を真面目に行うこと。そして仕事以外の時間も、自分は香蘭社を代表する人間であることを忘れずに、いい意味での緊張感を持ちながら生活するように心がけています。
また、何に関しても「楽しいことをやりたい」という思いがあり、自分が好きなものや趣味を仕事に生かして人を喜ばせることができないかと考え、これまで「ワンピース」と陶磁器とのコラボをきっかけに、香蘭社は「刀剣乱舞-ONLINE-」、「ウルトラマン」などのアニメやゲーム作品の他に「リカちゃん」、「スヌーピー」など人気キャラクターとのコラボレーション商品を世に送り出しました。
これからは大連の地で、世界中のお客様に喜んでいただける商品をお届けできるように中国本社であるこの会社を大きくしていきたいと思います。皆様ぜひ事務所へお気軽に足をお運びください。お待ちしております。