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インタビュー
2022年7月4日

大連市のインフラ支える工業ガス製造技術
今後は水素で大連市の脱炭素社会に貢献へ

【プロフィール】

大連岩谷気体機具有限公司 総経理

柏木 健宏(かしわぎ・たけひろ)氏

1966年生まれ。兵庫県神戸市出身。立命館大学理工学部化学科を卒業後、1989年岩谷産業株式会社入社。入社以来、同社産業ガス部門の営業を担当して現在に至る。神戸支店、大阪本社、西東京営業での勤務を経て2012年、上海石化岩谷有限公司へ出向、董事・総経理として4年間赴任。2016年広島支店で2年間の勤務を経て、2018年営業部長として大連岩谷機具有限公司に赴任。2022年4月同社董事・総経理に就任。

大連岩谷機具有限公司について

大連岩谷機具有限公司について

大連岩谷機具有限公司(以下、大連岩谷)は「住みよい地球」を願い、価値ある未来を創造する総合エネルギーと産業ガスの企業です。各種産業ガスの製造・物流・販売、エンジニアリングサービス、タンクやガス供給設備の設置や各種ガス設備及び部品等の販売を行っています。

大連岩谷は1930年創業の岩谷産業株式会社(以下、岩谷産業)と大連徳泰控股有限公司との合弁会社として1989年6月に設立し、2018年10月に岩谷産業グループの独資企業に変更しました。

日本で築き上げてきた品質へのこだわりや高い技術力を活かして中国・東北三省へ純度の高い各種産業ガス、医療用ガスや関連設備・機器を供給し、皆様の暮らしと産業を支えています。

また、大連市との技術交流と人的交流の活性化と日中友好関係の一層の強化のため、1997年から10年にわたり「大連市・岩谷日中溶接技術交流会」として、溶接技術セミナーと溶接コンクールを開催するなど、大連市の溶接技術向上と人材育成に貢献しました。

岩谷産業株式会社について

親会社である岩谷産業は90年以上の歴史を持つ総合エネルギ―と産業ガスの会社です。1930年創業者岩谷直治が大阪市港区に岩谷直治商店を創業。1945年に岩谷産業株式会社を設立しました。現在、LPガス、カセットこんろを中心とした総合エネルギー事業と、水素などの創業以来の産業ガス事業を基幹として、それらから派生した機械、マテリアル、自然産業など幅広い分野で事業展開を図っています。

設立の経緯

創業者の岩谷直治が最初に中国に進出したのは古く1941年で上海に会社を設立しカーバイドや酸素などの製造・販売事業に乗り出しました。岩谷産業としては1981年北京駐在事務所の開設し、国交正常化後日系企業の進出が加速し始めたタイミングの1989年大連岩谷を設立しました。岩谷産業で初の中国における合弁事業会社で、当時大連は造船関係など重厚長大産業が発展し始めた時期で、大連市政府の日本企業誘致も盛んでした。そこで岩谷産業のオリジナルブランド「シャープガス」という鉄を溶断するガスと溶断機器を製造し、大連市及び周辺地域に集積する鉄鋼、造船、橋梁、車輛等の企業群への普及させるべく会社を設立します。当初はこの溶断ガスと溶断機器を製造販売する会社でした。

シャープガスについて

シャープガスは岩谷産業のオリジナルブランドです。ナフサからエチレン生産時に複製される余剰ガスのプロピレンを主体とした溶断ガスで、酸素と一緒に噴出して鉄を溶断する溶断ガスです。アセチレンにくらべ安く、酸素の消費量も少なく、安全性の高いガスです。

当時大連で需要の多い溶断ガスはアセチレンが主体で、その原料であるカーバイドの製造には大量の電力が必要でした。当時中国の電力事情は非常に不安定であり、鉄を切断する会社は困っていたのです。

そこで大連の石油化学産業で副生されるプロピレンを主体としたシャープガスと溶断機器の製造販売事業を大連市に提案し、実際に大連の造船会社へシャープガスを持ち込み、関係者250人を前に実演テストを行い、好評を得て採用され会社の設立に至りました。。

産業ガスについて

大連岩谷の主力商品は産業ガスです。主に空気分離で生産する酸素・窒素・アルゴン。そして大連市で唯一生産している水素、さらにヘリウム、炭酸ガス、プロパンガスや各種混合ガス、特殊ガス等を扱っています。

シャープガス事業に続き、1994年に空気分離装置を稼働させ酸素、窒素、アルゴンの生産供給を開始し。2007年には水素の生産供給を開始しました。

大連岩谷の強みとは

岩谷産業90年以上の歴史で培われてきた高品質・安定供給・アフターサービス・そして安全性が強みです。日本品質で製造された高品質の空気分離ガスの酸素、窒素、アルゴンを大連市一円の各種企業、工場に安定供給させて頂いております。

医療用酸素については2006年に遼寧省で最初に医薬GMPと薬品生産許可証を取得し大連市一円の病院に安心品質の医療用酸素を供給しています。

水素に関しては、岩谷産業は日本でトップ企業で、大連では唯一、水素を生産供給している企業です。

そのほか、当社の主力商品の一つであるヘリウムガスは、米国とカタール権益を持っており中国でもとても供給力のあるガスの一つです。

大連に生産拠点を置くメリット

大連市は産業ガスを必要とする企業が多いです。しかも中国全体でトップレベルの企業が集まっています。石油化学・造船・車両機関車・大型機械・ベアリング・冷凍設備など、大連が中国で一二を争う産業規模です。造船などの、創業当時からの顧客に加え、新しい業種も増えていますので大連のガスの需要は今も増えています。

また大連市は世界でもバンコク・上海に次いで世界で3番目に日本企業進出の多い都市です。日本語人材が豊富であり、長く勤める社員が多いのも大きなメリットです。弊社は製造部門は全て技術力のある中国人スタッフに任せていますし、語学力は非常に高く、日本語専攻の大学が多いのもあると思いますが、独学で日本語をマスターした社員もいます。

取引先の日系企業が占める割合の変化

はい。設立当初は日系企業がメインでしたが、現在は3割程で、現地企業が6割、外資企業が1割となっています。最近は日系企業の進出はあまり多くないですが、中国企業は積極的に投資をしており産業ガスの販売量は増えています。

取引先の日系企業と中国企業の違い

日本の企業は品質重視の一方で、中国企業は品質以上に価格に対してシビアであり、近年は産業ガス販売分野でも中国企業や外資企業との価格競争が激しいです。

しかしガスは電気や水道と同じユーティリティであり、安定した供給が必要です。安定供給と品質が安定している会社を選びたいというお客様が多く、一度中国企業へ変えてもまた弊社へ戻すというお客様も少なくありません。

これは諸先輩方が築いてきてくださった高品質、安定供給体制のおかげです。しかし近年中国企業のレベルも向上してきますので現状に甘んじず、さらに厳しく品質管理を行い安定供給を確保してより良い体制を作っていきたいです。

コロナウイルス感染拡大による製造停止などはありましたか。

皆様の必需品である産業ガスの生産を止める訳にはいきませんでした。例えば医療用酸素です。弊社は大連市内で唯一医療用酸素を生産し、医療機関へ供給しています。大連市内の病院へは殆ど当社の医療用酸素が使われています。ですから弊社の製造がストップすれば、医療機関への酸素供給が止まってしまいます。

もちろん生産に影響がなかった訳ではありません。隔離になる社員や、ガスを運搬する専用タンクローリーの運転手が不足するなどの状況が発生しました。ガスの供給においては物流が非常に大きな要素ですがこの物流が混乱するなどもありました。しかしながら、大連市の支援も頂き、あらゆる対策を講じ、生産・供給を継続いたしました。

非常に苦しい経験でしたが、乗り越えたことでさらに顧客や大連市とのの信頼が高まり、今まで供給していなかったお客様が増えるきっかけにもなりました。

水素エネルギーについて

いつから水素を製造していますか。

岩谷産業は1941年から水素の販売を開始しています。「産業ガス」としての側面に加え、究極の「クリーンエネルギー」として注目し、日本の水素技術のパイオニアとして数々のプロジェクトや社会実験を通し水素社会のインフラ整備を進めてきました。

そのノウハウを生かし、大連では2007年に三期工事として水素の生産設備を建設し、生産を開始しました。現在大連市で水素を生産供給する唯一の企業です。

今どのような製造方法で水素を生産していますか。

メタノールを熱分解して生産しています。当社で生産している水素生産量はそれほど大きくなく、将来、水素エネルギーとして使用されるであろう水素の量はずっと大きくなります。

グリーン水素を生産される計画はありますか。

はい。上記の製造方法では二酸化炭素を排出しますが、石油化学産業等から排出される副生水素を回収し生成した水素や、風力や太陽光等の再生可能エネルギー電力を使い水電解で作る「グリーン水素」の供給体制を検討していきたいと考えています。

それを実現するためには水素の生産コストが下がることが必要です。グリーン水素では再生可能エネルギー由来の電力コストが下がる必要があります。

これから大連の水素需要は増えるでしょうか。

中国は水素に力を入れており、燃料電池で使用されてる水素の使用量は日本を既に大きく超えています。北京オリンピックでは選手や関係者の移動手段として数多くの燃料電池車が導入されたことからも伺えるように、世界に向けてアピールもしています。大連市も水素エネルギー事業の発展に特に力を入れていますので、今後需要が伸びることは間違いありません。

大連の水素エネルギー事業の発展において貴社はどのような立ち位置でしょうか。

大連市の水素製造・貯蔵・運輸の唯一の会社です。大連岩谷は大連市水素エネルギー協会のメンバーであり、大連市の稼働している水素ステーションすべてに水素を提供しています。

日本での水素トップサプライヤーであり、水素エネルギー、水素ステーション建設の実績から、2020年日中博覧会に参加し、一回目の「日本産業大講堂」で水素講座を担当しました、その時、盧林常務副市長をはじめ、水素関連会社のお客様約70名出席していただきました。

水素に関する今後の計画

水素は元々、力を入れてやっている事業ではありますが、大連市が力を入れている水素エネルギー事業拡大に合わせて、力を発揮していきたい。水素の供給はもちろん、日本で数多く実績のある水素ステーションの建設、設備供給にも関わっていきたいです。岩谷産業は日本でトップの水素サプライヤーですので、その経験を生かして大連での水素事業をさらに拡大していきたいです。

ご自身について

中国との関わりについて

2012年上海市の岩谷産業の事業会社、上海石化岩谷有限公司へ赴任し、それが初めての中国でした。岩谷産業本社で炭酸ガスを担当してましたので、炭酸ガスの製造販売会社である同社の責任者を担当することでやりがいを感じました。一度日本に帰国後2年後の2018年に大連に赴任しました。

中国赴任期間は延べ8年3ヶ月です。上海で妻に出会い結婚して子どもにも恵まれました。いつも明るく楽しい家族と共に過ごせることに感謝しています。

入社理由

理工学部化学科を専攻してましたので、専門商社で働きたいと考えて化学関係の会社をいくつか訪問しました。その時に液化水素を燃料に宇宙へ飛んでいくロケットの映像を見て、その液化水素を供給している岩谷産業に入社を決めました。

これまで中国で特に印象に残った出来事や、好きな場所など

中国で居住したのは上海と大連の2ヶ所ですが、大連は非常に住みやすい街だと思います。旅行では九寨溝や黄山を訪れましたが景色がとても美しく素晴らしい経験でした。九寨溝に行った時は高山病になり、酸素を作る仕事をしていながらその時に初めて自分で酸素を買って吸引して「酸素はとても重要だ」と感じた経験があります。

働く上で大切にしている考え

私が大切にしているのは誠心誠意、信頼を得ることです。誠意を持って相手と向き合うことの大切さは、国境も関係ないと感じます。

今後の目標

新しい事業を立ち上げたり新しい分野へ挑戦したいです。今先輩方が築き上げてきた既存の分野で仕事ができていますが、その恩恵を受けているだけではなく私も新しいことをやっていきたいと思います。

新事業を考える上では、「住みよい地球」を願う岩谷産業グループの企業として新エネルギー時代に水素で貢献していくことが責任だと感じています。これからも多くの方から信頼される企業として、二酸化炭素を排出しない未来へ貢献していきたいと思います。