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billibilli
インタビュー
2022年4月20日

中国の若者と日本の若者が交流できる場を
両国の友好のため少しでも長く働き続けたい

【プロフィール】

日本語教師

武田 憲治(たけだ・けんじ)氏

大阪府出身。創価大学在学中、河南大学と遼寧師範大学で1年半の留学を経験。卒業後、松下電器産業株式会社(現在のパナソニック株式会社)に入社、海外営業部で中国の各地を飛び回る。その後、イオン株式会社へ転職し、香港駐在も経験する。両親の介護の必要から塾講師になり、国語科を担当。2021年3月、日本語教師として大連交通大学に着任。

 まず中国や大連との縁を、教えていただけますか。

もう35年くらい前になりますが、学生時代、河南大学と遼寧師範大学での留学を経験しました。この時に、初めて大連にも来ました。今回、約30年ぶりの大連ですので、懐かしい景色を期待していましたが、全てが変わっていましたね。変わっていないのは、中山広場くらいでしょうか。今は、発展した大連を楽しんでいます。松下電器に入社してからも、出張で良く中国へ来ていました。海外営業でしたので、北はチャムス、南は海南島まで、中国各地を飛び回りました。転職してイオンに入社してからは、香港駐在も経験しました。

 遼寧師範大学は、再訪できましたでしょうか。

コロナ禍での封鎖もあり、まだ遼師のキャンパスには入れていません。ただ、友人のツテで、私が留学していた当時の生活指導の先生と連絡を取り合えました。先生はもう77歳になりますが、私が電話をしたら「你是不是武田啊?(もしかして武田さん?)」とおっしゃってくださり、私のことを覚えていてくださったのです。とても嬉しい出来事でした。

 ビジネスの世界から日本語教育の世界に入られましたが、日本語教師を目指したきっかけは何だったのでしょうか。

両親の介護が必要となり、昼は介護をし、夜に働ける仕事ということで、イオンを辞めた後、塾の講師となりました。それから、母が他界し、父が施設へ入所することとなり、介護の必要性が減ったある日、妻が私に言ってくれました。「お父さんは私が面倒を見るから、中国へ行っておいで。中国で働くのが夢だったでしょ」と。そして、日本語教師として中国へ行く決心をし、懐かしい大連で働ける大学を探し、大連交通大学に赴任しました。

 奥様の言葉を伺うと、武田先生は中国への熱い想いを持っていらっしゃると感じますが、中国への想いはどこから来ているのでしょうか。

私の通っていた創価大学は、日中友好の長い伝統があり、中国にはたくさんの卒業生がいます。「中国のために何かしたい」というのは、私にとっても若い頃からの夢でした。中国への想いは、当時から持ち続けています。今こそ、中国を知る日本人と日本を知る中国人が共に手を取り合うべきではないかと思っています。

 日本語教育で心掛けている点などはありますか。

他の先生方の話を聞くと、学生が変わってきているようです。以前の学生は、日本の高い技術を学びたいなどと高い意欲を持っていましたが、最近の学生は第一志望に落ちてしまったから日本語にしたなど、必ずしも高い意欲を持っていないそうです。ですので、情熱を持っているとは限らない学生たちに対し、日本や日本語への興味をどう持ってもらうか工夫しています。例えば、教え方には日本語だけを使う「直接法」と、中国語も使う「間接法」がありますが、私は両方を組み合わせています。直接法だけで教えると、どうしても理解が不十分になってしまいますので、必要に応じ、中国語でも説明し、しっかりと理解してもらえるようにしています。

 さて、武田先生は「大連日本語サークル」にも積極的に関わっていらっしゃいますが、これはどんなサークルでしょうか。

設立は2021年6月です。現在は、呉暁頴さん、于龍さん、私の3人が運営スタッフとして切り盛りしています。設立以来、場所をご提供いただいたNAグループさん、ボランティアの日本人教師の方々、領事事務所の方々、日本教師会の方々のご協力とご支援の下、また、多くのボランティアスタッフの努力の下、少しずつですが、盛り上がってきました。毎週土曜日、20人定員の教室で活動しております。お陰様で、クチコミで新しい参加者も増えており、今では参加チケットが争奪戦となっています。コロナ禍で教室が使えない時も、オンラインで実施し、これまで中断せずに続けて来られました。約半年で、注目されるサークルとなれたことは、本当にありがたいことです。

 参加者は、どんな方々なのでしょうか。

参加者は、小学生から50歳以上の方まで、幅広い年齢層です。日本語力にはバラツキがありますが、全員が「日本語を学びたい」「日本を知りたい」という強い意欲を持っています。先ほども申しあげた通り、最近の大学では学生の意欲低下もあり、「大学教育の限界」を多くの教師が感じています。ですが、この大連日本語サークルは私にとってオアシスのような環境です。参加者の皆さんは高い意欲を持っており、私の教師としての情熱を、全て受け止めてくれますから。

 具体的には何をされているのでしょうか。

90分で実施しており、前半と後半に分けています。前半はクイズやゲームで、後半がフリートークです。参加者の日本語力には差がありますので、日本語力に関係なく、全員で楽しめるのがクイズやゲームです。フリートークは、参加者1人1人の日本語力に合わせ、対応しています。フリートークは、日本語力の高い人だけがしゃべるという状況になりがちです。それでは、しゃべれる人は楽しいでしょうが、会話力がまだ高くない人にとっては、つまらない時間となり、活動からも足が遠のいてしまうかもしれません。そうならないように、1人1人に合わせ、進行も工夫しています。

 今後、大連日本語サークルとしてどんな活動を展開する予定でしょうか。

今は、9人のボランティアスタッフもおり、動画制作や教材制作の企画が進行中です。また、文化交流やバーベキュー、花見なども実施してみたいと考えております。将来的には、大連日本語サークルとして大連の学校を訪問し、「日本を知ってもらう時間」を各学校へ提供したいと思っております。

 最後に、今後も目標をお聞かせください。

「中国で学校を作る」というのが、私の留学中からの夢でした。外国人が中国で学校を作るのは、現実的には難しいのかもしれませんが、中国の若者と日本の若者が交流できる場は、作りたいと思っております。大連日本語サークルを、そのような場として発展させたいと考えております。大連の各学校で「日本を知ってもらう時間」を設けたいというのも、この目標への第一歩です。日本の若者が大連へ来た時の交流の場として、日本を知っている学校や学生が多ければ、より有意義な時間が共有できると思っています。とにかく、友好のために少しでも長く働きたいというのが、私の願いです。