野村綜研(大連)科技有限公司 総経理
河口 千代孝氏(かわぐち・ちよたか)
埼玉県出身。1973年生まれ。東京工業大学大学院地球惑星科学専攻修了。株式会社野村総合研究所入社後、投資信託の基準価額計算システムや、住宅情報誌の紙面システムの開発、システムコンサルティングの部署等を経て2014年、NRIフィナンシャル・グラフィックス株式会社を設立。2014年7月から2020年3月まで社長を務め、2020年4月NRI大連の総経理に赴任。現在に至る。
野村綜研(大連)科技有限公司について
株式会社野村総合研究所(以下、NRI)の海外現地法人で、2010年10月に上海(コンサルティング)、北京(システム開発)につづいて、NRIグループの中国大陸第三番目の拠点としてBPO(ビジネスプロセスアウトソース)事業の拡大を目的に設立されました。NRIはコンサルティングからITソリューションまで一貫したサービスを提供する会社です。NRI大連はNRIのDNAと、NRIの強みである品質へのこだわりやマネジメント力を受け継ぎ、主に日系金融機関および事業会社向けに付加価値の高いアウトソーシングサービスやシステム維持管理サービスを提供しています。
これまでの歩みを教えてください。
もともとは金融業務のBCP(事業継続計画)やコスト削減を目的として大連に進出しました。その後BPO業務に加え、システムの開発、運用保守などを行うITO(インフォメーションテクノロジーアウトソース)、情報収集・分析・加工といった業務を行うKPO(ナレッジプロセスアウトソース)といったサービスを展開し、これらを軸に成長してきました。日本のNRIがそのまま大連にあると言え、NRI大連自体がNRIグループ全体の強みともなっています。私が大連に赴任して以降、中国現地の事業展開にも力をいれており、最近ではDX関連のサービスを中国に進出している日系企業を中心に提供しています。
他の企業にはない独自の強みはありますか。
多才な人材が集っていることだと思います。社員数が325人おりますが、BPOで培ったノウハウ(マニュアル作成、業務の標準化、品質の向上策など)を持つ経験豊富な社員が多く、そのほかにもコンサルティング、IT、様々な分野に長けた人材がいます。
例えば、NRI大連における投資信託の基準価額計算業務では、資産運用会社との電話対応+システム操作+会計知識が必要なため、スタッフ教育には約3ヶ月~数年必要となります。NRI大連では、このような社員教育が充実しており、そのノウハウが強みとなっております。
大連に拠点を置くメリット
日本は台風、地震といった自然災害も多く、日本から近く災害の少ない大連に拠点があることは事業継続においてリスク分散になります。また大連は日本語ができるというだけでなく、日本の文化や商習慣まで理解している人材が多いことが特徴的です。一方、人材の流動が激しく、優秀な人材を確保することは年々難しくなってきています。そのために、NRI大連ではさまざまな対策を行っています。
人材を確保するための取り組み
入社後3年以内にキャリアアップのために転職する社員が多かったことから、人事面談を積極的に行い、キャリアプランなどについ
て細かくヒアリングをすることで離職率を下げることができています。
また社員のご両親、お子さんを含めた家族の皆さんに来社いただき、普段どんなところで働いているかを見てもらう「ファミリーデー」を開催しています。その他にも、春はピクニック、さくらんぼ狩り、星海広場のビーチクリーニングといったイベントを通じて、社員同士の結束力を高めることができていると実感します。
さらに以前は、即戦力として中途採用を行うことがほとんどだったこともあり、社員の年齢層のバランスを見直す必要性を感じていましたので、積極的に新卒採用を行い、若い世代を育てていく方針を立てました。その具体的な方策の一つが企業連携クラスです。
企業連携クラスとはどのような取り組みですか。
NRI大連と大連外国語大学日本語学院が共同開催する取組みで、2022年3月に正式に開講しました。広く世界に活躍できる人材の育成を通じ大連からの日本語人材の流出に歯止めをかけ、現地企業が優秀な人材を確保することを目指して、大連外国語大学に働きかけ、独自のカリキュラムを取り入れた企業連携クラスを推進してきました。
何度も大連外国語大学へ足を運び、NRI大連が求める人材像に基づき授業カリキュラムやスケジュール、頻度、実習活動などについて意見を交わしました。大連現地企業の特徴を踏まえ、金融、財務の科目を設定し、ITリテラシーや、簡単な自動化ツールを実際の業務に活用して効果を体感する授業も開催しました。今後はDX推進の実例を用いて、BI、AI等の最新技術に関する授業を導入する予定です。
人材流出はNRI大連を含む大連現地の企業にとっても、大連の都市発展にとっても大きな問題です。ぜひこの企業連携クラスで他の企業とも協力することができれば、もっと面白いカリキュラムができ、大連のすばらしい人材育成に繋げられるのではないかと思っています。ご興味のある企業はぜひご連絡ください。
なぜ同社に入社されたのですか。
もともと理学部で地球物理を勉強していたのですが、直接就職に活かせる専攻ではありませんでした。就職活動をするときに、大学でシステムを使ってシミュレーションをしていたので、IT関連の仕事ができるのではないかと思い、IT関連のソリューションに強いNRIに入社しました。
社内ベンチャーの立ち上げについて
2014年、社内で金融業界のレポート作成業務を担う会社「NRIフィナンシャル・グラフィックス株式会社」を立ち上げました。NRIプロセスイノベーション株式会社と日経印刷株式会社の合弁企業です。作成するものは投資信託会社が発行する「目論見書」や「運用報告書」、保険会社が発行する「パンフレット」などです。こういった資料は、どれも金融知識や制度に関する高度な理解とデザイン力技術が求められます。そこで印刷会社と協力し、持っているノウハウを取り入れ、経営に参画してもらうことで、レポート業務に求められる付加価値を提供し、金融業界のニーズに応えています。私は大連に赴任する直前まで、この会社の社長を6年間務めました。
仕事でやりがいを感じること
振り返ってみるとどれもがやりがいを感じる経験ばかりだと感じます。例えば20代の頃、住宅情報誌の誌面を作る仕事では一からお客様と要件定義を行い、自分で画面を設計してシステムを開発し納品するところまでできたのは大きかったですし、その後もシステム開発で数十億のプロジェクトを動かしたことや、39歳で上述の会社を立ち上げたことも非常にやりがいのある仕事でした。現在のNRI大連の総経理としての仕事も同様です。それぞれのキャリアで一歩ずつ成長し、ステップアップしている実感があります。
NRI大連が成長している理由
時流を読むことができているからだと思います。今後の事業展開に際し、国際情勢、為替の問題、法律の問題、個人情報の越境問題など不透明さがあることは間違いありません。しかしどんな時代であろうと、お客様が抱えている課題は何かを見抜き、時代を読み、先を読む力は必須です。NRI大連にはそのような力を持つ社員が多いからこそ、企業が成長し続けられているのであり、またそれがNRI大連の強みとなっているのだと思います。
大切にしている考え方
「知好楽」という孔子の言葉を大切にしています。私の座右の銘でもあり、社員にも伝えています。知っているだけの人は好きな人には及ばない、好きなだけの人は楽しんでいる人には及ばない、という意味の言葉です。NRI大連の中でも、自分の専門については一番詳しい人になろう、そして仕事を好きになり、楽しく振舞うことが大切だと話しています。
仕事を自分ごととして好きにならないと、なかなかいい成果は出せないものです。もちろん、働く中でうまくいかないこともありますが、笑顔で周りを巻き込んでいくことが大切だと思います。どんよりしてしまうと他の人に波及してしまいますから、苦しい時こそ笑顔で前向きに取り組んでいく姿勢を大切にしています。
文化の違いを感じたこと
日本だと近年社員旅行や会食は減り、社員同士の関係性はやや希薄な印象がありますが、大連だとむしろ関係が密接であり、積極的に社内イベントに参加される方も多いです。先日の社員旅行では、325人中270人が参加してくれました。新年会でも社員が積極的にステージに上がって歌ったり踊ったりすることは日本ではあまりない光景で、中国の素晴らしい文化だと思います。人前に出ることに躊躇しない、チャレンジングな姿勢は仕事面にも通じますが、いい面に作用することもあれば悪い面に作用することもあるので、バランスを取りながら仕事を進めるようにしています。
最後にメッセージをお願いします。
NRI大連は昨年コーポレートステートメントを「携手創未来(一緒に手を携えて未来を創っていきましょう)」に一新しました。また2030年に向けたビジョンステートメントを「開辟新天地(新天地を切り開いていきましょう)と定めました。
NRI大連はいろんな方を巻き込みながら新天地を切り開き、一緒に未来を創造してゆく会社です。私たちと一緒に仕事を行うことで、ワクワク感を体験して頂けるのではないかと思います。皆で一緒に未来を創っていきましょう!